視点 夏休み特集号 /「過程を測る」入試の本丸ー旧帝大の二時試験を、採点する側から読む
BF-2026-04
2026年(令和8年)7月10日発行
発行:清光教育総合研究所(教授シリーズ)
協力:スカラーズギルド
「過程を測る」入試の本丸 ── 旧帝大の二次試験を、採点する側から読む
共通テストが「知識の運用」へ舵を切るはるか前から、 旧帝大の二次試験は白紙の解答用紙で「考えの過程」を測り続けてきた。 文系の論述も、理系の記述も、根は一つの設計である。 その設計と、夏の使い方を特集する。
なぜ旧帝大は
「二次が重い」のか
旧帝大入試の第一の特徴は、配点構造にある。 多くの学部で、個別試験の配点が共通テストのそれを上回る。 共通テストが約50万人を機械採点で測る「広く浅い網」だとすれば、 二次試験は数千人を専門の採点者が読み込む「狭く深い網」であり、 旧帝大は後者に賭ける設計を一貫して選んできた。
理由は、迎え入れた後の教育にある。 研究大学である旧帝大の学生は、入学後ただちにレポート・演習・卒業研究という 「自分の頭で組み立てて書く」作業に投げ込まれる。 その適性は、マーク式では測り切れない。 白紙の解答用紙に、根拠から論を組んで書けるか── 二次試験の記述・論述は、入学後の知的作業の予行として設計されている。
この目で見ると、共通テスト改革は、入試全体が旧帝大型へ寄っていく過程として読める。 旧帝大対策は特殊な受験技術ではなく、新しい入試の標準形の先取りなのだ。
文系と理系、
根は一つ
文系の地歴・国語の論述と、理系の数学・理科の記述は、 別世界に見えて採点の設計は同じである。 模範解答を要素に分解し、要素ごとに配点を割り当て、 答案を要素の有無と質で照合する。 複数の採点者が独立に読み、乖離があれば合議で調整する。
だから文系の「何を書けば点になるのか分からない」も、 理系の「答えは合っていたのに部分点が伸びない」も、 原因は同じ一点に帰着する── 採点者に見える形で、要素と過程を紙面に置いていない。
部分点は採点者の温情ではなく、要素照合の設計そのものである。 逆に言えば、この設計に合わせて書く技術は、文理を問わず訓練で確実に伸びる。
旧帝大7校──入試設計の定点(2026年夏時点)
| 大学 | 個別試験の性格(本紙の寸評) | 年内の経路(多面的評価型) |
|---|---|---|
| 北海道大学 | 標準問題を確実に積む力を見る。総合入試(学部を決めず入学)という接続設計も特徴。 | フロンティア入試(総合型) |
| 東北大学 | 教科書の理解を深く問う良問主義。年内経路の規模が旧帝大最大級。 | 総合型選抜(AO入試)を主要な入口に位置づけ、将来的な全面移行の構想を公表。 |
| 東京大学 | 科目数と時間圧が最重量級。要約・論述で「削って書く」力を問う。 | 学校推薦型選抜(2016年度開始) |
| 名古屋大学 | 誘導に乗せながら思考の持久力を測る出題。 | 学校推薦型・総合型選抜 |
| 京都大学 | 誘導を排し、方針の立案から自力で組ませる。記述量・自由度とも最大級。 | 特色入試(2016年度開始) |
| 大阪大学 | 論理の運びの正確さを重んじる出題。外国語学部など学部の個性も強い。 | 総合型・学校推薦型選抜 |
| 九州大学 | 基本から応用を幅広く、処理の確かさを見る。 | 総合型選抜 |
年内経路の名称・開始年は各大学の公表資料より作成。 個別試験の寸評は本紙の分析であり、出題方針は年度により変わり得る。 募集人員・出願要件は必ず各大学の募集要項で確認のこと。
実践編 文系は「要素」、理系は「過程」、土台は共通
旧帝大の夏は、演習量の競争ではない。 採点の設計に自分の書き方を合わせていく、調整の40日である。
文系の夏 「要素で書く」を体に入れる
論述の訓練は、書く前に始まる。 まず設問を問いの構造──何を・どの観点で・どこまで──に分解し、 含めるべき要素を箇条で挙げてから構成する。
書いた後は、模範解答との「似ている・似ていない」ではなく、 要素単位の照合で自己採点する── どの要素があり、どれが欠け、根拠と主張の間に飛躍がないか。 この自己採点の型こそ、採点者の目線を自分の答案に向ける訓練であり、 夏に体へ入れる価値が最も高い一つの技術である。 地歴の大型論述は、要素を挙げる工程だけを10年分回す「構成だけ演習」が、 通しで書くより効率がよい。
理系の夏 「過程の見える化」を仕込む
答えが合って部分点が伸びない答案と、答えを落として部分点を拾う答案の差は、 方針の言語化にある。 「〜を示すには、〜が言えれば十分」「この置換の狙いは〜」 ──採点者が要素照合できる道標を、式の間に一行ずつ置く。
夏の演習では、解けた問題こそ「答案を他人が再現できるか」の基準で書き直す。 理科は、初見の実験設定に対して「何を測ろうとしている装置か」を最初に一文で言う習慣を。 それが「構造で読む」の、二次記述版である。
旧帝大の採点室──答案はこう読まれる
旧帝大の記述・論述は、印象では採点されない。 模範解答を要素に分解した基準表を先に作り、 複数の採点者が独立に読み、乖離した答案は合議で調整する。 採点開始前にはサンプル答案で基準合わせを行う。
この設計が意味するのは一つ── 採点者は「良い文章」ではなく「要素と構造」を探している。 内容は分かっているのに点にならない答案の大半は、 要素を落とすか、構造を採点者に見える形で示していないかのどちらかである。 夏の訓練の照準は、ここに合わせる。
年内の経路という第二の扉
旧帝大にも、東京大学の学校推薦型、京都大学の特色入試、 東北大学の総合型(AO)をはじめ、多面的評価の経路が全校に開いている。 これらは「一般選抜より易しい抜け道」ではなく、 探究・活動の実質を持つ生徒のための、別の測り方である。
2027年度からの面接必須化で、探究の過程を語る力の比重はさらに上がる。 実質のある高1・高2は、夏のうちに志望校の要件 (評定・提出物・口頭試問の形式)を一次資料で確認し、 一般選抜との併願線を描いておく価値がある。
コラム 研究大学で学ぶということ
旧帝大の価値は、偏差値の高さではない。 知識を「習う場所」ではなく「作る現場」に身を置けることである。 教員は教科書の解説者ではなく、教科書の次のページを書いている研究者であり、 学生は学部のうちから、まだ答えのない問いの縁に立たされる。
二次試験が「自分の頭で組み立てて書く」力を執拗に測るのは、 この現場への入口だからだ。 志望動機を偏差値の言葉でしか語れないうちは、まだ入口の手前にいる。 夏の一冊──その大学の研究者が書いた本を一冊読むこと──は、 動機を自分の言葉に変える最短の道である。
本紙の立場
本紙は、学校・塾・予備校の先生方の指導や、日々の学習の代わりではありません。 旧帝大対策の教科指導・添削には、それぞれの専門の先生方の役割があります。 本紙が重ねるのは、迎え入れる側の「読み方」という一段の視点だけです。 役割が違うだけで、優劣ではありません。
高校の先生方から寄せられるご要望
高校の先生方からお寄せいただくご要望は、おおむね次の四つに整理されます。 本紙および各講座は、この四点に応える形で編集しています。
- 評価の言語化──なぜこの答案が点にならないのかを、生徒に説明できる基準がほしい
- 年内入試への備え──総合型・学校推薦型の書類と面接を、大学側がどう読むのかを知りたい
- 探究の出口──探究活動を、評価される形の記録へつなぐ手順がほしい
- 進路指導の一次資料──報道の見出しではなく、制度の原資料に基づく整理がほしい
教授シリーズのご案内
清光学院「教授シリーズ」は、大学入試問題の作成に携わってきた元大学教授が、 作る側・迎え入れる側の視点から講義するオンラインの講座群です。 各科目の講座と研究刊行物を公開しています。
教授サロン
大学の側から見ると何が違って見えるのか。その一点をお答えする企画です。 大学は入試で何を見ているか、大学の学びは高校までと何が違うか、 志望理由書を大学側はどう読むかなどを扱います。
教員向け研修講座「採点者の眼」
添削・作問のための実務研修です。 要素採点と部分点の設計、0点条件をどこに置くか、 ボーダーに効く弁別設問の置き方など、 一般化された設計論を扱います。
書誌情報
教授シリーズ・ブリーフ「視点」夏休み特集号 BF-2026-04 第1版・タブロイド印刷版(2026年7月10日)
発行:清光教育総合研究所(教授シリーズ) 協力:スカラーズギルド
推奨引用形式:清光教育総合研究所(2026)
『「過程を測る」入試の本丸──旧帝大の二次試験を、採点する側から読む』BF-2026-04
主要参照資料:各大学の入学者選抜要項・公表資料/ 文部科学省「令和9年度大学入学者選抜実施要項」(2026年5月27日)/ 教授シリーズ白書2026(WP-2026-01)第1章・第4章
免責:本紙の分析・見解は発行者によるものであり、 引用した資料の原資料作成機関の見解を示すものではありません。 配点・選抜方法・年内経路の要件は学部・年度により異なります。 出願にあたっては必ず各大学の募集要項をご確認ください。
